数字を見ない経営者だった頃の話

数字見ない 経営者

いまはパン屋を2店舗運営していて、売上も客数も原価率も、毎週数字で確認しています。前日の最低気温と天気まで、毎朝スプレッドシートに入力しています。

ここまで書くと、最初から数字にこだわるタイプだったように見えるかもしれませんが、実際はまったく逆でした。

数字を見ない経営者だった頃があります。

感覚で値段を決め、感覚で仕入れを決め、感覚で「今月はまあまあだった」と判断していた時期です。

この記事では、その頃に何をしていたか、何が起きたか、そしてどうやって今の形に変わったかを書きます。

こうして振り返って文章にすると、当時の自分がずいぶん頼りなく見えます。

ただ、当時は当時なりに、店を回すだけで精一杯でした。数字を見る余裕がなかったというより、数字を見るという発想そのものが、優先順位の中に入っていなかったというほうが近いかもしれません。

数字を見ない経営者だった頃、感覚だけで値段を決めていた

数字見ない 経営者

パン屋を始めた当初、私は世の中のインフレや物価高騰の流れをきちんと見通せていませんでした。

仕入れの値段が上がっているという実感はあったはずなのに、価格はデフレ時代の発想のまま、安く出すことを続けていました。

「安さで選ばれている」という思い込み

当時の私は、「値段を上げたら客が離れる」という漠然とした不安がありました。

ただ、振り返ってみると、それは数字で確かめた不安ではなく、なんとなくそう思い込んでいただけだったと感じています。

原価がどれだけ上がっているのか、人件費が売上に対してどのくらいの比率になっているのかを細かく記録して見てはいませんでした。

月末に通帳の残高を見て、多いか少ないかで一喜一憂する・・・それが当時の「経営を見る」というレベルでした。

同業の知り合いと話していても、「値上げは怖い」という感覚的な話で終わることがよくありました。

誰も悪気があるわけではなく、みんな同じように、数字ではなく感覚で経営を語っていたのだと思います。

当時の私にとって、それが当たり前の感覚でしたが、今振り返ると、感覚で語り合うこと自体が、数字を見なくてもいいと思い込む土壌になっていたのかもしれません。

数字を見ないまま下した判断は、あとから振り返ると根拠がなかった

値段を据え置く判断も、仕入れの量を決める判断も、当時の私には明確な根拠がありませんでした。

「たぶんこれくらいだろう」という感覚だけで店を回していました。

感覚がすべて悪いわけではありませんが、感覚だけに頼ると、状況が変わったことに気づくのが遅れ、その遅れが、次に書く数字となって表れました。

月末に通帳の残高を見て一喜一憂していた頃は、その残高がどの数字の積み重ねでできているのかを分解して考えることがありませんでした。

売上が多かった月も、少なかった月も、「なんとなく良かった」「なんとなく悪かった」で片づけていました。

原因を数字で追いかけていないので、次の月に同じ判断を繰り返し、良い月も悪い月も理由が分からないまま過ぎていきます。

今思えば、店は毎月違う条件で動いていたのに、自分の側の見方だけが変わっていませんでした。

デフレ発想の価格設定を続けた結果、FL比率が悪化した

数字見ない 経営者

数字を見ないまま価格を据え置き続けた結果、原価率は30%を超え、人件費率は40%程度まで上がりました。

原価率と人件費率を合わせたFL比率は、69.1%という水準まで悪化していました。

数字にしてはじめて、深刻さが分かった

FL比率が69.1%というのは、利益がほとんど残らない構造です。

当時の私は、この数字を正確に把握していたわけではありません。

あとから記録を整理して初めて、どれだけ危うい状態だったかが分かりました。

感覚では「なんとなく厳しい」くらいにしか捉えていなかったものが、数字にすると「このままでは続かない」という明確な危機になりました。

数字を見ていなかったから、対処も遅れた

原価が上がっているという実感はあったのに、価格に反映させる判断は先送りにしていました。

今なら分かりますが、これは「様子を見ていた」のではなく、「数字で確認していなかったから、動くきっかけを持てなかった」という状態に近かったと思います。

数字を見ない経営者だった頃は、問題が起きていることにさえ、はっきりとは気づけていませんでした。

先送りにしていた期間は、決して短くありませんでした。

世の中で物価高騰のニュースを目にしても、それを自分の店の原価と結びつけて考えることをしていなかったのだと思います。

ニュースはニュース、自分の店は自分の店、というふうに切り離して受け取っていました。

この切り離しをやめて、世の中の動きと自分の店の数字をつなげて見るようになったのは、もう少しあとの話です。

週次で数字を記録するようになってから、経営者としての見え方が変わった

数字見ない 経営者

FL比率の悪化に向き合ってから、私は週次で数字を売上や客数だけでなく、シフトの稼働時間とのバランスも一緒に見るようにしました。

配置を見直しただけで、人件費率が7ポイント改善した

週次で記録を続けながら、時間帯ごとの仕事量に対して人の配置が合っているかを見直しました。

業務効率化を継続的に回し、集客が安定してきたことで必要な人員を読みやすくなり、過去のデータを分析する精度も上がっていきました。

結果として、人件費率は38.8%から31.5%まで下がり、FL比率も69.1%から61.5%まで改善しました。

原価率のほうは30.3%から30.1%とほぼ横ばいで、改善のほとんどは人件費率の見直しによるものでした。

数字を見る前と後で、同じ「忙しい」の意味が変わった

数字を見ない経営者だった頃も、「忙しい」とは感じていました。

ただ、その忙しさが利益につながっているのか、それとも人を使いすぎているだけなのか、判断する材料を持っていませんでした。

週次の記録をつけるようになってからは、「売上は伸びているのに労働時間も同じだけ伸びていて、結局利益は変わっていない」というような状態が、数字としてはっきり見えるようになりました。

感覚だけでは気づけなかったことに、記録を通じて気づけるようになったという変化です。

記録を始めた最初の数週間は、悪い数字を見るのが怖かった

正直に書くと、記録を始めた最初の数週間は、数字を見ること自体に気が重い部分がありました。

これまで見ないようにしていた現実を、毎週突きつけられるような感覚があったからですが、それでも記録を続けたのは、見ないままにしておいても状況は良くならないと分かっていたからです。

数週間続けるうちに、悪い数字が出た週も「どこを直せばいいか」という材料に見えるようになり、怖さよりも次の一手を考える感覚のほうが強くなっていきました。

天候まで記録するようになったのは、数字を見ない頃には考えられなかった

数字見ない 経営者

いまは売上や客数、原価率、人時生産性に加えて、前日の最低気温と天気まで、毎朝自動で記録に加えています。

数字を見ない経営者だった頃には、ここまでやるとは思っていませんでした。

天候の記録が、経営の判断材料になっている

天候を記録するようになってから分かったのは、私の店の場合、雨の日でも客数の落ち込みが10%程度にとどまっているということでした。

この数字を知らなければ、雨の日はなんとなく「今日はお客さんが少ないだろう」と諦めていたかもしれません。

記録があるからこそ、「思ったほど落ちない」という実感を数字で裏づけて、雨の日の営業にも普段どおりの姿勢で臨めるようになりました。

数字を見ない経営者だった頃は、雨の日の売上が落ちても「天気のせいだから仕方ない」で終わらせていました。

仕方ないという言葉は便利で、それ以上考えなくて済みます。

ただ、便利さの裏側で、対策を打つ機会も一緒に手放していたのだと、今なら分かります。

天候という自分では変えられない条件でも、記録して傾向をつかめば、その条件のなかでできる工夫が見えてくる。これは、数字を見る習慣がなければ気づけなかったことです。

記録する項目が増えたのは、余裕ができたからではなく順番が逆だった

天候まで記録するようになったのは、経営に余裕ができたからではありません。

順番としては逆で、価格を見直し、配置を見直し、数字で経営を見る習慣が身についてから、記録する項目を少しずつ増やしていきました。

数字を見ない経営者だった頃は、そもそも売上以外の何を記録すればいいのかという発想自体がありませんでした。

いま2店舗を運営していて、記録する項目は今後も増えていくと思っています。

ただ、一気に全部を記録しようとはしていません。1つの項目を数週間つけてみて、それが判断に役立つと分かってから、次の項目を足す。

数字を見ない経営者だった頃には考えられなかったやり方ですが、この積み重ね方のほうが、記録が続くと感じています。

まとめ|数字を見ない経営者だった頃と、今の違い

要点を整理します。

  • 数字を見ない経営者だった頃は、価格も仕入れも感覚だけで判断していた
  • デフレ発想のまま価格を据え置いた結果、FL比率は69.1%まで悪化した
  • 週次で数字を記録するようになってから、配置を見直し、人件費率を7ポイント改善できた
  • いまは天候まで毎朝記録し、雨の日でも客数の落ち込みは10%程度にとどまっている
  • 記録する項目が増えたのは余裕ができたからではなく、数字を見る習慣が先にあったから

数字を見ない経営者だった頃を思い出すと、当時は「感覚でも店は回っている」と思っていました。

実際には、回っているように見えていただけだったと、今なら分かります。回っているように見える状態と、実際に利益が残る状態は、まったく別物でした。

この違いに気づけたのが、うちにとっては数字を見始めた最大の収穫だったと思っています。

今日からできることを置いておきます。

  • 今週の売上・客数を、感覚ではなく数字で書き出してみる
  • 「なんとなく忙しい」と感じた週があれば、労働時間もあわせて記録する
  • 価格を最後に見直したのがいつか、原価の変化とあわせて確認する
  • 記録する項目を1つだけ増やすとしたら何にするか、考えてみる
  • 同業や周囲と経営の話をするとき、感覚だけで終わっていないか振り返る
  • 記録をつけ始めたら、悪い数字が出た週こそ理由を書き添えておく

数字を見ない経営者だった頃の失敗は、今の店づくりの土台になっています。

特別な分析ツールがなくても、週次で記録をつけるところから始められます。うちが使っているのも、特別なソフトではなく普通のスプレッドシートです。

道具ではなく、続ける習慣のほうが大事だったと、今振り返っても感じています。


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